ハロウィン

百ほた13

今年もやってきたハロウィン。
生徒会長である信長はイベント好きのため、ハロウィンも毎年学校行事として組み込まれており、スイーツ部は宣伝もかねて前日に大量の菓子を用意する。
昨年はパンプキン型のクッキーだったので、今年はシナモンを練り込んだコウモリ型のクッキー生地を部員全員で大量に作り、寝かした後に型抜きをして焼くを繰り返していた。
透明な袋に焼けたクッキーを入れると、部員それぞれのリボンで結んでいく。
信長は赤、家康は緑、秀吉は金、蘭丸は青、ほたるは紫。
さらにほたるは必ず光秀に飴を大量に持たされるので、クッキーが尽きるとそれを配るようにしていた。
さすがに飴まで包装するのは大変なので個包装されているしとそのままだが、渡された袋に表記された文字にどうにも悩んでしまう。

「とうがらしキャンディーはスイーツと言えるのでしょうか……?」
「甘味は含まれているのだからスイーツでしょ? それに下心満載の奴らには『悪戯』にもなるのだからそれでいいんだよ」

確かにハロウィンの決まり文句は『お菓子か悪戯か』を問う。
光秀の説明に一応は納得しつつも顔を曇らせると、「何、君も食べたいの?」と個包装に手を掛ける姿に全力で首を横に振った。
口いっぱいの饅頭攻撃は、ほたるの軽いトラウマだった。

そうしてハロウィン当日、仮想したほたるは校内を歩く。
昨年は魔女、今年はくの一。
正体を自ら明かしているようで落ち着かないが、信長の指名なのだから仕方ない。
ただ、ほたるを見るや顔を真っ赤にして家康が倒れてしまい、秀吉は目を輝かせていつも以上にスキンシップ激しめに抱きつこうとするので、ほたるとしては困りものだった。
男子生徒の視線も過剰で忍びとしては複雑で、声をかけられればクッキーを渡し、よくわからない誘いは部活動を理由に断る。
女子生徒は昨年のスイーツ部の菓子を気に入ってくれたらしく、「今年のも可愛い」と褒められて嬉しくなった。
ひとしきり配り終わったほたるは、生徒指導室のドアを叩く。
素っ気ない入室許可にもめげずに入ると、深いため息に迎えられた。

「今年も来たのか……」

生徒だけでなく教員も全員参加を定められているため、百地も帰るわけにもいかず仕方なしに生徒指導室にいるので、ほたるは必ず顔を出していた。

「早く渡して帰れ」
「師匠、決まり文句を言ってません」
「構わないだろう」
「だめです」

頑なに促しムッスリと告げられた決まり文句に取り置いていたクッキーを渡す。
部屋の備え置きの茶道具でお茶を淹れると、眉間のシワを深めながらも仕方なくラッピングからクッキーを取り出した百地を見つめて、ほたるは信長から聞いた話を語る。

「シナモンは媚薬の効果があるそうですが師匠どうでしょう?」
「この程度のものが効くものか」
「師匠のは多めに入れたのですが」
「……俺に盛ってどうする」

くの一なら常套手段とも言える誘惑は、ほたるの最も苦手としているもの。
相手をろう絡するのに秘伝の香を用いたりするが、当然忍びである百地はかなりの耐性を持っている。
故に市販の香辛料に使われるシナモン程度を多量にしたところで効果などないと分かっているが、それでも試したいのは恋心から。
散々に思いを伝えても、どうにも進展のない関係がもどかしかった。

「では私は部室に戻ります」
「ああ」

すげない返事に肩を落として生徒指導室を後にする。
その気配が遠のいた後に呟かれた言葉をほたるが知るのはいつの日か。

「俺をろう絡してどうするつもりだ馬鹿ものが……」

シナモンなどより存在そのものが百地にとって媚薬なのだとほたるが知るのは、そう遠くもない。

下天の華ワンドロワンライ2021【お題ハロウィン】
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