誕生日

百ほた12

「生誕日の祝いか。お前も毎年、まめだな」

部屋の中の光景にそう呟けば、当たり前ですと当然のように頷く少女に苦笑する。
最近、思うことがある。
それは幾たびもの朝を迎え、こうして年をとることは、決してあたりまえじゃないということ。
大切な者の笑顔を見られる日々は、それだけで奇跡なのだと、そう目の前の娘を見るたびに思うのだ。
そもそもほたるの師となったこともまた、奇異の縁だった。
上忍故にその子どもを指南するのは間々あることだったが、ほたるはまるで親を慕うように接してくるから、百地は度々頭を抱えたものだった。
親を失くすことは忍びにはよくあることで、百地自身もそうだった。
けれどもそこで嘆いているだけなど許されないのもまた忍びであり、ましてや巻物を継ぐ者となれば当然だった。
余計な情けは弟子の命を縮める。
身を守れるのは自身だけで、任務を滞りなく遂行できなければ滅びゆくだけなのだ。
だから百地はほたるを鍛えるのに手を抜くことはなかった。
手の皮が剥けて痛いと泣いても修行を続けさせたし、疲れたと訴えても必要な課題はこなさせた。
それでもほたるが甘ったれなのは、厳しさを貫き通せなかったからなのか。
しかし情の深さは忍びとしては不利でしかないのに、それ故に彼女は夢を得た。
織田信長の目指す天下布武を支えるーー安土の盾となって。



腰かけ改めてテーブルの上を見ると、並んでいるのはどれも百地の好物ばかり。

「今年も当日に祝えて良かったです」

任務があれば当然そちらを優先する。
それは忍びとして当たり前であり、誕生日など言い訳にはならない。
それでもこうして嬉々と祝いの席を作る幼な妻を見れば、任務が重ならなくて良かったと思う己に人間くさくなったものだと心中で呟く。
普段より幾分豪華な夕食を終え、一日の疲れを湯で取ると、残るのは夜の時間。
甘ったれがちらりと窺っている姿に苦笑すると、ほらと促してやる。

「……さあ、来い。愛を伝えられる時に、何度でも伝えてやる」

2021.04.04
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