壊れた世界の約束

央撫19

ああ、君は君なんだと思った。
罪悪感に押し潰されそうになっても、決して逃げずに前を向き続ける強さ。
苦しくても人のせいにするのでもなく向き合い、何をすればいいのか考える。そんな姿を見て、彼女なんだと思った。

目覚めた撫子が以前の彼女ではないと言われ、始めはよくわからなかった。
彼女の事情は聞かされていたから、どういったことが起きているのかは理解できたけれども、彼女の記憶を有していて、彼女と同じ行動を取る撫子を別人だなんて思えなくて、どう接すればいいのか戸惑った。
彼女が申し訳なく思っているのを感じる度に、そんなふうに思わなくていいのにと思って、でもそれを伝えるには自分の思いが定まらないから言えなくて。

彼女を帰したときには後悔した。
好きだったのに何をカッコつけたんだと、彼女が元の世界に帰れて良かったと思うのも本当だったけれど、同じぐらいもう会えないことも、自分のことを忘れてしまうことも悲しかった。
忘れないでと、叶うはずの願いを口にしてしまったのもそんな思いからで、それが今の彼女を苦しめてるなんて思いもしなかった。
忘れないでと願ったから、彼女は僕のことを覚えてくれていた。
忘れたくないと願ったから、彼女はその願いを抱きしめて守ってくれた。
それを知ったときに、ああ好きだと思った。
僕が好きになったのは確かにこの子なのだと、そう思ったらそれまでの戸惑いはあっさり消えてしまっていた。
彼女は九楼撫子。
それに違いはなくて。
きっと僕のことを覚えていなくても君は君で、それでも覚えていてくれたのも嬉しくて。
だから君が苦しむのなら忘れてしまってもいいし、また僕を知ってもらいたいと思った。
君を知りたいと思った。
君が悲しむのなら笑って欲しいし、助けを望むなら手を差しのべたい。
だって君は九楼撫子ちゃんで、僕が大好きな女の子だから。

20210213
Index Menu