それが罪だと言うのなら

円撫18

おもむろに手を取るとじっと見つめて、そのまま固まったように動かない円を不思議そうに見上げる。

「円?」
「ぼくにあなたを求める権利なんかないんですよ」

ポツリとこぼれた言葉。
そこに浮かぶ表情は以前にも見たことがあるものだった。

「あなたを事故にあわせておきながらいつか、償わなければならない日が来るのだろうか……いつか、彼らに家族をやめられてしまう日が来るのだろうかと、ひとりの女の子の人生を、運命を狂わせておいて、ぼくが抱えたのは、罪の意識ではなく、家族へのさらなる執着だけだったんです」

ずっと円を苦しめ続けてきた罪の意識。
家族と引き離され、償うべきだと罪を突きつけられて、CZの地下で眠る私を目覚めさせることを強要させられてきた。

「狂ってしまったのはあなたも同じでしょう。それに権利なんか必要ないわ。私が、あなたを求めたんだもの」

傍にいない方が良かったのかもしれない。
それでも、央を危険にさらしてまで円は迎えに来てくれた。撫子もその手を取った。それがすべてだった。

この体に今、傷はない。
事故にあった時は車に轢かれたというし、重体だったのだから当然あったのだろう。
けれども十年という月日は傷を癒し、損傷を受けた脳も今は過去の撫子の存在に活動していた。

この世界の過去を経験していない今の撫子は、正確にはこの世界の九楼撫子とは言えない存在だろう。
それでも、撫子はここで生きると決めた。
この世界の九楼撫子として、この世界の円と共にいることを選んだのだ。

「私を見るたびにあなたが傷つくのだとしても、もう離れないと決めたの。だから苦しいなら……抱きしめるわ」

撫子という存在自体が円を傷つけるのなら、その傷を癒したい。
あなたが罪だというのなら、それを共に背負って向き合うと、そう決めたのだから。

「……ちょっと、この手は何よ」
「慰めてくれるんでしょ? あなた、そう言いましたよね」
「こういう意味でじゃないわよ!」
「慰めてくださいよ。あなたに触れるのがぼくでいいんだと言ってください」

そう言って唇を塞ぐ円に、これじゃ言えないじゃないと内心で思いながら、そっとその背を抱きしめた。

20210411
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