面映ゆい日々に

ソウヒヨ13

「ねえ、やっぱり眠いし、僕の家でゴロゴロイチャイチャしてようよ~」
「凝部さん一人で帰ってください」
「いや、トモくんには言ってないし」
「行かないし、凝部くんも学校に行くの」

あくびをしながら気だるげに呟けば、即座に返ってくる刺々しい言葉と、キッパリとした否定に、凝部はあ~あとため息をつく。
異世界配信から戻って晴れてヒヨリと付き合うようになって、凝部はまた学校に行くようになった。
なったがやはり今まで好き放題していたのもあってどうにも夜型から朝型へ戻すのが難しく、朝起きるだけでも一苦労だった。

「どうせまた遅くまでゲームをしていたんじゃないですか?」
「トモくん正解☆ 僕のことそんなに分かってるなんてもしかして……」
「それ以上口にしたら今すぐ抹殺します」
「わお☆ 抹殺宣言されちゃった」
「トモセくん、言い過ぎだよ。凝部くんも煽らないの」

ヒヨリが仲裁に入れば渋々ながらも萬城が引くのはあの世界と変わらず、凝部は肩を竦めると並んで歩く。
元々ヒヨリは幼なじみである萬城と登校していたので、今はそこに凝部がまざる形だった。
まあ、凝部もヒヨリと二人きりがいいなどと言うつもりはなかったので構わないが、こうも敵愾心を剥き出しにされるとつい買って出たくなるのも仕方ないだろう。

「あ、ケイちゃんだ☆」
「げっ」
「げってひどくない?」
「ヒヨリちゃん、これはケイちゃんの愛情表現だから」
「気持ち悪い。そんなわけあるか。マジ死ね」
「う~ん、ケイちゃんは朝から元気だよね」

死ねがデフォルメの獲端にとっては挨拶のようなものだと軽く流すも、ヒヨリには面白くないらしい。

(まあ、こうもあからさまに嫌がられたら面白くないか)

凝部は獲端が女嫌いなことを知っているが、理由もわからなく嫌がられるのはたまったものじゃないだろう。
それでも、こうして異世界で知り合ったメンバーは皆面白く、彼らがいると思えば学校に来るのも少しは面白いと思えなくもなかった。

「ヒヨリ、行くぞ。予鈴が鳴る」
「あ、うん。凝部くんも獲端くんも早く」
「言われなくても行くに決まってるだろ」

眉をつり上げつつも、これ以上のやり取りは遅刻だとわかったのだろう。
さっさと歩き出した獲端に、凝部がぼやく。

「やっぱり休もうかな~」
「そのまま休んで留年しろ」
「ん~そしたらトモくんと同級生だね☆」
「……それなら敬称が不要になるか」
「トモくん真面目に考えないで」

賑やかに話しながら互いのクラスを目指すと、タイミングよく鳴った予鈴にヒヨリと教室に飛び込んだ。
並んで座ると、ふわぁと欠伸をする。

「凝部くん、ちゃんと起きててよ?」
「ん~」

気のない返事をしながら教室を見る。 凝部の席は一番後ろの端なために、こうしてクラスを見渡すことが出来るのだ。

「僕、ヒヨリちゃんの後ろが良かったんだけど」
「後ろだとすぐに起こせません」
「隠れられるから大丈夫☆」
「大丈夫じゃない」

もう、と呆れたようにヒヨリが肩を竦めると、やって来た教師に授業が始まる。
寝ようとする度ヒヨリに起こされ、ようやくチャイムが午前中の授業の終わりを知らせると、机を片したヒヨリが弁当箱を二つカバンから取り出した。
それを当たり前のように差し出すから、こそばゆくて内心の動揺を視線をそらすことでやり過ごす。

「毎日だと大変じゃない?」
「いつも自分の分も作ってるんだもの。二つに増えてもあまり変わらないから。ただ好き嫌いは直して欲しいかな」
「ん~だったら僕が食べれるように頑張ってね、ヒヨリちゃん」
「え、私?」
「うん☆」

悪びれずに笑えばもう、と頬を膨らませるポーズをとりつつ許してくれるから、留め具を外して弁当を開く。

「あ、唐揚げだ」
「凝部くん、美味しいって言ってたから」
「卵焼きと唐揚げはお弁当の定番だよね。あ、ウィンナータコだ」
「弟たちの癖で……子どもっぽかった?」
「いいんじゃない? 優しいお姉さんで」

全体的に可愛らしいが、弟妹達に作っていることを考えれば納得できるし、味もいいのだから文句を言う必要もなかった。

「彼女の手作り弁当なんてロマンだからね」
「何それ」

クスクスと可笑しそうに笑うヒヨリは、ちらちらと覗きこんでる視線に気づいてなく、凝部は内心ため息をつく。

(人気者の彼女を持つと大変、と)

凝部がヒヨリと付き合っていると知れた時、クラス中がざわめいたのは記憶に新しい。
その中には本気のものも何人かいたのだろう。
嘆きの声が聞こえてもいた。

「いただきます」

パチリと手を合わせるヒヨリに倣っていただきますと告げると、箸でオカズを摘まんで食む。
家にいるとレトルトやパン、ケータリングなどになるので、こうした家庭食らしいものを口にするのは珍しかった。

「へえ、こういう味付けもあるんだ」
「え、なんかおかしかった?」
「ううん、ただ前に食べたものと違うなって思っただけ」
「弟たちが甘しょうゆ風味が好きだから、どうしてもそれに偏っちゃうの。他の味付けが良かったら言ってね」
「僕も好きだよ」
「……っ」

食べながら誉めれば、ぴくんと反応したヒヨリにニヤリと笑む。

「なに? 好きって言われて反応しちゃった?」
「どうしてそう鋭いの……」
「かーわいい☆」

すかさず弄ればもう、とむくれるから、それが可愛いんだってと心で呟く。

「俺の彼女が可愛すぎてツラい……」
「冗談はいいから。早く食べないと休憩終わっちゃうよ?」
「この後昼寝しようよ、屋上で」
「ダメです」
「ちぇ~」

サボりを提案するもやはりの却下に、弁当を片すと机に突っ伏す。
その後もヒヨリにつつかれながら午後の授業を終えると、噛み殺しきれないあくびに目元が緩む。

「もう少しで先生にばれるとこだったよ」
「別にいいんじゃない? 出席日数と成績さえとれれば進級できるし」
「凝部くんは出席日数がまずいじゃない」
「ハハ、そうだった」

まったく悪びれずに笑えば呆れた眼差しに、まあまあとコンビニに手を引く。

「弟ちゃんがお菓子欲しがってなかったっけ?」
「あ、うん。えっと……」

話題を変えるのに成功し、意識がお菓子コーナーに流れたのを感じると、ふとあるものに目がいく。

(やっぱりネットかな)

買うのを他で見られるのも気まずいかと考えると、凝部くん?と呼びかけられて肩を跳ねさせる。

「な、なに?」
「何か欲しいものでもあるの? 一緒に買う?」
「あー大丈夫。なんでもない。さあ、買おう!」

くるんと体の向きを変えさせると、ぐいぐいレジへと押していく。
会計を済ませ、胡乱な目を向けるヒヨリと手を繋ぐ。

「え?」
「もうすぐ分かれ道だからね。送っていってもいいけど?」
「それは大丈夫。遠回りになっちゃうし」
「そこは甘えてくれれば」
「今度凝部くんの家に遊びにいくね」

スルリと離れたぬくもりを寂しく思えば、ちゅっと柔らかな感触が頬に触れて。
一瞬遅れて彼女を見ると、照れくさそうに手を振られる。

「はあ~~~マジ何あれ。可愛すぎでしょ。この後どうすればいいの」

思わずその場にうずくまると、奇異の視線が向けられるがそれどころではない。
早めに注文しよう、そう決意するとぬくもりを繋ぎ止めるようにグッと拳を握って歩き出した。

20201024
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