可愛い彼女

ミズヒヨ1

今日はミズキさんと海でデート。
昨年の夏は異世界配信から元の世界に戻れず、友達と計画していた旅行も行けずじまいだったから、ミズキさんがあの世界で話した「楽しい冗談」を覚えていて、こうして海に連れてきてくれたことが本当に嬉しかった。けれどーー。

「ねえ、そこの二人!」

そう後ろからかけられた声に振り返ると、見知らぬ男の人が数人歩み寄ってくる。この光景は本日何度目か分からないぐらいに繰り返されていて、戸惑い身を強張らせると、ミズキさんが間を遮るように前に出て庇ってくれる。

「……それって僕らのことかな?」

「そうそう! お姉さん美人だね! そっちの彼女も可愛いし」

「どうせなら「美人」と言われるよりも「綺麗」の方が嬉しいんだけど?」

ミズキさんの背中に隠れる私を覗きこもうとした男の人たちに、ミズキさんは髪をかきあげると、妖艶に微笑み相手を見る。そんなミズキさんは本当に綺麗で、圧倒され立ち竦む男の人たちに、スッと目を細めて気配を鋭くする。

「ふっ、僕をナンパするなんて百年早い。まずは言葉選びから学び直すんだね。あとは真実を見抜く目も鍛えないと」

唖然とする男の人たちに、ミズキさんは私の肩を抱き寄せて、颯爽と身を翻してその場を離れる。

「あの二人、そういう関係なのかよ……」

そんな呟きが聞こえて隣のミズキさんを見上げるけど、「どうしたの?」なんて聞こえているはずなのにとぼけるから「何でもないです」と、きゅっとミズキさんのパーカーを掴む。
普段はスーツを着ているから間違われることはないけど、今日は裾の長いパーカーを水着の上から羽織っているからか、異世界の時のようにミズキさんの性別を勘違いする人が多く、その度に先程のように相手をやり込める姿につい眉間にシワが寄ってしまう。

「難しい顔をしているね。きみが何を考えているのか当ててみせようか?」

「性別なんて些細なこと、ですか?」

「ふふ、そうだよ。正しい答えをきみは知っているでしょ? それに間違われるのも悪くはないかな。きみを守れるならね」

パチリとウィンクされて頬が赤らむが、どちらかと言えば彼等の狙いはミズキさんだと思うので、効果は半々と言えた。

「可愛いきみの水着姿に惹かれるのは分からないわけでもないけど、面白くはないからね。あれぐらいの仕返しは大目に見てほしいな」

「あの人たちが惹かれてるのはミズキさんの方にですよ。私じゃありません」

確かにこんな綺麗な人が目の前にいたら声もかけたくなるのだろう。海は気分を開放的にさせると言うし……なんて一般論を思い浮かべていると顎を掴まれて。上がった視線に、綺麗な微笑みが映る。

「普段行くことのない海でのデートは楽しかったし、可愛いきみの水着姿も見られて嬉しかったけど、チョイスは間違ったかな。……早くきみを独占したい」

耳元の囁きに鼓動を跳ねあげると、頬にキスされて。人目を憚らない行動に周りから黄色い悲鳴が上がるのを聞いて慌ててその腕を引くと、喧騒から離れた所で唇を尖らせる。

「ミズキさん、やりすぎです!」

「そうかい? 可愛い彼女にはいつだって触れたいからね」

口では絶対敵うことのない人だけど、やはり衆目を集めて平然としていられるわけもなく、恥ずかしさに耐えかねてぽすんとミズキさんの胸に隠れるようにすがりつく。

「……人前はその、恥ずかしいので……二人きりの時がいいです」

ミズキさんにキスをされるのは嫌いじゃないし、触れられるのも同じだから。そう告げると沈黙が流れて、どうしたのかとミズキさんの様子を見ようと顔をあげた瞬間キスが降る。

「じゃあ誰にも邪魔されない所に行こうか?」

そう微笑んだミズキさんが実は内心動揺していたことなんて全く気がつかなくて、「煽った罰だよ」と呟きと共にベッドに沈められた身体は朝まで離してもらえなかった。

20181130
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