思いがけない初キス

ロックマン×ナナリー

「は?」

手にしたメモに視線を落としたナナリーは、胡乱な眼差しと共に唸る。
ーーキスしないと出られません。
そう書かれたメモに入口を振り返ると、何故か入ってきたはずのドアがなく、窓さえすべて接着されたかのようにピクリとも動かず、閉じ込められたのだと悟る。
誰かの悪戯か、それにしたってたちが悪すぎると憤っていると、背後からため息が聞こえて、反射的に振り返ると一番会いたくない男に目を吊り上げた。

「何であんたがいるのよ」
「僕の後に君が来たんだよ」
「嘘」
「そんな嘘ついてなんの意味があるの」

咄嗟に否定するも、奴もよく図書館を利用しているのは知っていたし、いるのが隅の方だったので気づかなかったらしい。
しかしそうなるとまずいことになる。
まず、キスしないと出られないと言うなら、当然それが解放の条件となるが、一人で出来ることではない。
だが何故好きでもない、ましてや敵とも言うべきこの男とそんなことをしなければならないのか。

「しばらく待って、そうすれば先生が気づいてくれるかも」

ここが図書館でなければ、魔法で強制的に打ち破ることも考えたが、万が一本に被害が及んではと諦めた。

「ヘル」
「何よ……」

呼び掛けに反射的に振り返って、ふよんと頬に触れた感触に頭が真っ白になる。
瞬間、何かが解ける気配がして、空気の流れが変わる。
スタスタと歩いていく姿を目で追えば、そこには消えたはずのドアが復活しており、ロックマンは取っ手に指をかけると、こちらを振り返った。

「出ないの?」
「……! 出るわよ!」

また閉じ込められたら堪らないと駆け出すと、勢い余って奴に飛び込んでしまう。

「なに? もう一度して欲しいの?」
「そんなわけないでしょ! っていうか、勝手にしないでよ!」
「手っ取り早く出られたんだからいいんじゃない?」
「いいわけあるか!」

あっけらかんといい放つロックマンに、フツフツと腸が煮えくり返る。
女ったらしのアイツはあの程度朝飯前なのだろうが、こちらは初キスなのだ。
それをあっさり「手っ取り早い」で片付けられるのは到底許せなかった。
そう初キス……

「…………っ」

ボッと一気に跳ね上がった体温に歯噛みする。
頬を狙っていたのだろうキスは、呼び掛けに勢いよく振り返ったせいで、唇の真横という際どい箇所だったのだ。
ぎりぎり唇は死守できたといえ、こんな所は家族にさえされたことはなく、それをこの男にと思えば腹も立つ。

「顔、赤いけどもしかして初めてだった?」
「……っ、女ったらしのあんたと一緒にしないでよ!」

キッと眉を吊り上げると、奴の動きが止まって、訝しげに確認しようと視線を上げたと同時に顔が反らされる。

「君との会話は神経が削がれる」
「はあ?」

すげない言葉にさらに眉が吊り上がるが、さっさと立ち去るロックマンに、こっちの台詞よ!と悪態をついて地団駄を踏む。
金の髪に隠れた耳がほのかに赤らんでいたことをナナリーが知ることはなかった。

今日のロクナナ
キスしないと出られない部屋に閉じ込められる。数十秒でクリアし、退出。その後部屋のドアに「〇〇しないと出られません」とメモを貼るのが二人の間で流行る。
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